研究概要 |
関東地方南部から九州地方(南西諸島を含む)にかけて広く分布するカンアオイ属カンアオイ節(sect. Bicornia Araki)植物相互の系統関係,そして現在の地理的分布の実態とその成立過程を探ることを目的に,それらの分子系統学的解析を進めるとともに,形態情報による分布域の洗い直しと分類群の検討を進めてきた.これまでの調査で,対象とするカンアオイ属植物では核DNAのITS領域には変異が少ないことが判明した。そこで,ITS領域同様に進化速度が速いと考えられるETS領域の約600bpに着目して解析を進めたが,この領域においても塩基配列情報にあまり大きな変異は認められなかった.得られた塩基配列情報に基づいて近隣結合樹を作成してみたが,多分岐,あるいは一つの枝端に集合するため,分類群相互の系統的位置づけを捉えることができなかった.これは,カンアオイ節植物群の遺伝的レベルでの分化が予想以上に低いことを示している可能性もあり,より進化速度の速い遺伝的マーカーに着目した解析が今後必要と思われる.一方個々の種の分布域の洗い直しと分類群の再検討を同時に進め,鈴鹿山地北部にこれまで認識されていなかった新たな分類群(新種Asarum majale T.Sugaw.)を確認し,論文として報告した.また,北陸・山陰地方においても既存の分類群からは区別される複数の分類群の存在を確認した.これらはいずれも独自の地理的分布域を占め,開花期においても明瞭に異なるが,形態的分化の程度は低いため,日本海側で比較的新しい時代に急速に分化した可能性が考えられた.
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