研究概要 |
咀嚼運動ならびに嚥下運動にともなう一次感覚運動皮質ならびに頭頂皮質での活動性を検討してきた。とくに,頭頂皮質においては脳血流の安定な活動性が計測可能であったが,一次感覚運動皮質においては側頭筋の筋血流が干渉を示した。そこで,主成分分析法を応用して脳血流波形の2次解析を行い,血流データからの筋血流の干渉を除去し,脳血流のみのマップに再構成を試みた。その結果,咀嚼筋欠損症例に見る脳血流のみの波形パターンに酷似したことから,本研究における主成分分析の有用性が示された。一方,口腔感覚遮断による咀嚼時の一次感覚運動皮質ならびに頭頂皮質領域の活動性変調については,これらの脳領域に有意な活動性低下が示された。さらに,局部義歯の装着は,咀嚼筋活動の上昇に併せて一次感覚運動皮質に明らかな活動性の亢進を示した。 前頭皮質領域においても同様の研究を行い,前頭皮質が咀嚼により両側の背外側領域に活動性を高めることを確認した。この活性は,咀嚼運動の想起よっても,弱いながら生じる。このことは,前頭皮質が咀嚼行動の発現に深くかかわることを示唆している。また,口腔感覚を遮断しての咀嚼運動は,前頭皮質の活性を有意に低下した。したがって,前頭皮質が咀嚼時の感覚・運動機能ならびに口腔の感覚認知とかかわるものと考えた。さらに,口腔感覚異常者では,咀嚼時の前頭皮質の活動性は,健常者に比べ,有意に低下した状態にあることを確認し,口腔感覚異常と前頭皮質機能低下との関連を推察した。さらに,局部床義歯の装着は前頭皮質の活動性を高めた。 以上のことから,口腔の補綴学的再構成は,口腔感覚の認知,感覚と運動の統合,ならびに咀嚼の運動企画とその実行など,機能的亢進にかかわるものと考えられた。
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