研究概要 |
タンパク質システイン残基の活性窒素種による部位特異的S-ニトロソ化修飾は,多様なタンパク質を標的としてその機能調節を担う翻訳後レドックス修飾である。本研究では,活性窒素の1種であるS-ニトロソチオール(RSNO)の代謝を司るS-ニトロソグルタチオン還元酵素(GSNOR)を,この翻訳後修飾の主要な制御因子と位置づけ,(1)植物タンパク質のS-ニトロソ化におけるにおけるRSNO代謝の重要性と,(2)RSNO代謝の鍵酵素であるGSNORによる植物代謝機能,特に窒素同化機能の制御に関して調査した。 (1)硝酸などの無機窒素栄養や二酸化窒素・NO供与薬剤などの活性窒素を与えることにより・シロイヌナズナではRSNO含量が著しく増大することを明らかにした。これらのRSNOの多くは高分子量画分に回収されることから,その実体はS-ニトロソ化タンパク質と推定された。そこでビオチンスィッチ法を適用し,シロイヌナズナにおけるRSNOレベルとS-ニトロソ化タンパク質レベルの変動の相関を調査した。NO供与薬剤処理により,野生株ではS-ニトロソ化タンパク質レベルが上昇するが,GSNOR過剰発現株では,その上昇が有意に抑制されることを明らかにした。これらの結果から,主要なRSNOの実体の1つはS-ニトロソ化タンパク質であること,ならびにGSNORがタンパク質のS-ニトソロ化修飾に重要な役割を果たしていることが支持された。 (2)重要な植物代謝機能である窒素同化の制御におけるS-ニトロソ化修飾の関与について調査し,窒素栄養状態に依存してタンパク質のS-ニトロソ化レベルが変動すること,また窒素飢餓からの回復過程において,窒素源として硝酸或は二酸化窒素を与えた場合,いずれの場合もGSNORの過剰発現がこれらの無機窒素栄養(が吸収と向化を有意に促進することを見出した。これらの結果は,GSNORに制御されたS-ニトロソ化修飾が窒素代謝機能調節に関与していることを示唆するとともに,GSNORが窒素同化能向上の分子育種の標的となる可能性も示している。
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