研究概要 |
本研究は,高齢者の転倒を予防するために,身体運動能力だけでなく高齢者特有の認知を視野に入れ,運動と認知が相互にどのように影響し合い,転倒へと結びついてしまうのか,という問題の一端を理解することを目的とした実験的研究である. 前年度までに,運動認知を測定する運動課題は跨ぐ動作,運動認知の評価にはアフォーダンスの知覚を用いることが,研究遂行上安全かつ簡便に評価が可能であると分かった.よって,本年度は,跨ぐ動作時の身体運動能力と運動認知との関連を定量的に調査した.対象は地域在住高齢者とし,過去一年間の転倒の有無,転倒恐怖感,身体バランス能力,前頭葉機能,足趾筋力,重心動揺などを測定した.また,跨ぐことが可能であると判断する最大の高さ(推定値)と実際に跨ぐことが可能な最大の高さ(実測値)を距離にて評価した.さらに,この推定値と実測値を除して,認知誤差率を算出した.認知誤差率が高くなると運動認知が実際の能力よりも大きい状態を示し,また小さくなると運動認知が実際の能力よりも低い状態を示す.得られた指標を用いて,運動認知と身体運動能力などとの関連を調査した.結果,運動認知能力と転倒することへの恐怖感,身体バランス能力(重心動揺)は関連する傾向があることが分かった. 以上より,運動認知よりも身体運動能力が劣っている高齢者,すなわち自分の身体運動能力を過信する傾向にある高齢者は,転倒に対する恐怖感や身体バランス能力からネガティブな影響を受けている可能性があり,特に恐怖感が運動と認知に関連しているものと考えられた.
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