研究課題
基盤研究(C)
申請者のこれまでのベルギー・フランス語文学研究を踏まえて越境性、文化的多層性に注目し、国際的・無国籍的に活躍する作家(外へのベクトル)と、現在ベルギーで活躍が顕著化している移民系作家(外からのベクトル、非母語としてのフランス語文学、トランスナショナル性)の動向研究や作品分析を行った。その際に、言語芸術とそれに関わる芸術活動(舞台芸術や都市空間・移民地区などとの関わり)の二つの側面を相互に関連させつつ調査・考察を行った。ベルギーの脱領域的、動的で新しい文化的多層性の実態を明らかにすると共に、現在仏語圏で展開している「越境文学」研究に、未だ未開拓のベルギーからの視点を導入することを目指した。具体的には、ベルギーの移民史や文化政策の背景確認と共に、異文化としての差異化の激しいEU域外からのイスラム系作家の考察、トルコ系ベルギー人フランス語作家ケナン・ゴルグンの小説・エッセー・戯曲・パフォーマンスの分析などを通してアイデンティティや起源としての民族意識、越境の意味を問うた。多言語、無国籍的な作家としてのジャン・レー、マルセル・ティリー、ベルギーの国家ナショナリズムと民族・宗教的越境性を併せ持つシャルル・ド・コステルらの越境性や多層性を作品翻訳と分析により明らかにした。またベルギーの芸術活動や政策の現況を見据え、ベルギー人現代作家、研究者との意見交換、共同研究を行ってきた。最終年度にはアメリー・ノトンの越境性についてまとめた。またド・コステル研究の第一人者クリンケンベルク名誉教授に作家の最新研究動向の確認や邦訳への助言を受けた。さらに本科研費研究での知見を元に、日本でのベルギー文学研究・翻訳発展を目指すべく新たなワーキンググループを立ち上げた。研究成果は学会・ベルギー研究会・シンポジウムでの発表、翻訳出版、移民や交流をテーマとした論文集(編著)出版などを通して公表している。
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