研究概要 |
多くの抗がん剤は,ゲノムに直接作用し損傷を与えるほか,DNA代謝酵素やDNA結合タンパクを不可逆的にゲノムにクロスリンクしがん細胞を死滅させる。この反応でゲノムに生じるDNA-タンパク質クロスリンク損傷(DPC)は,従来のbulky adductと比較し極めて巨大なDNA付加体である。細胞がもつDNA修復能力は,がん細胞の抗がん剤耐性を考える上で重要な因子であることから,本研究では,ヌクレオチド除去修復(NER)およびプロテアソームのDPC修復への関与を検討した。 哺乳類のNERには約20種類のタンパク質が関与するが,サイズの大きいクロスリンクタンパク質(CLP)は立体障害により損傷部位におけるアッセンブリーを阻害し,NERが修復できるCLPサイズには上限があると予想される。この上限サイズを明らかにするため,サイズの異なるCLPを含むDNA基質を調製し,NER活性をin vitroで評価した。oxanineを含む150mer DNAを合成し,タンパク質とインキュベートすることにより,oxanine-タンパク質クロスリンクを含むDNA基質(150OXA-DPC)を調製した。150OXA-DPCを細胞粗抽出物とインキュベートし,生成物を変性PAGEで分析した。DNAの切断活性は,CLPサイズの増加とともに減少し,切断されるCLP上限サイズは8-10kDaであった。NERで除去されるCLPのサイズに上限があることが明らかとなったことから,NERに先行したプロテアソームによるCLP分解の可能性について検討した。DPC誘発剤で処理した細胞から,ゲノムを単離精製しCLPのポリユビキチン化をWestern法で検討した。プロテアソーム阻害剤の有無にかかわらず,CLPのポリユビキチン化シグナルは認められなかった。この結果から,プロテアソームによるCLP分解はNERに関与しないことが明らかとなった。
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