研究概要 |
電子スピンの向きは化学反応や物質の物性と構造を制御する極めて重要な因子である。したがってポリラジカル種のスピン整列に関する研究は極めて重要である。平成21年度は、以下の研究成果をあげた。 1. ビラジカルの最安定スピン多重度に及ぼす窒素とケイ素の効果:高速コンピューターで長寿命一重項ビラジカルの分子設計をおこなった。一重項ビラジカルの寿命はその分子内環化反応の速度で決まるので、環化反応を抑制する手法を見出すことが一重項ビラジカルの長寿命化に直結する。分子内環化生成物よりもエネルギー的に安定な一重項ビラジカルの分子設計が可能であれば、極めて長寿命な一重項ビラジカルの発生が実現できる。そこで、一重項ビラジカルの熱力学的な安定化と同時に対応する分子内環化生成物の不安定化を達成するために、1,3-ビラジカルの骨格内にヘテロ原子、つまり窒素とケイ素原子を有するビラジカルに着目し、その最安定スピン多重度ならびにその環化体とのエネルギー差を見積盛った。その結果、1,2-ジアザ-4-シラシクロペンタン-3,5-ビラジカルの一重項が環化体よりも安定となる分子設計に成功した。 2. 一重項ビラジカルの実験化学的発生:窒素とケイ素原子を有するビラジカル誘導体の実験的発生は、対応するアゾ化合物の脱窒素反応を用いた。それらのアゾ化合物は、合成容易なピラゾール誘導体を用いた環化反応で合成した。その結果、これまで分子内反応の中間体としてのみ考えられてきたビラジカルの分子間反応に成功した。
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