研究概要 |
本研究では, 中枢神経系の構造と機能に関して, 遺伝子発現レベルからの検討を行うために, いくつかのアプローチを試みた. 1.生体脳における特定mRNAの定量;脳内の遺伝子発現状況を調べるために, RNAプローブを用いた特定mRNAの定量法を検討した. 一つは, ドットブロット法によるものであり, 他方は, 本研究で新たに検討した溶液法によるものである. これら両者の方法によって, マウス脳RNA中に含まれるβ-チューブリンmRNA, β-アクチンmRNAを定量した所, 良い結果の一致を示した. 今後, これら方法によって, 脳内の特定領域で発現されている各種mRNAの定量が可能と思われる. 2.培養神経細胞による神経突起伸長制御機構の解析;プロテインキナーゼ阻害剤(H-7)が, 培養神経細胞の突起伸長を著しく促進することを見い出した. この突起伸長と共に, 一過的なβ-チューブリンmRNAの増加が見られた. これは, β-チューブリンmRNA合成の増加によるらしい. さらに, 突起伸長細胞に対するトランスフェクション実験を行った所, 特定エンハンサー活性の変化が認められた. 今後, この系を用いて, 突起伸長に関連している遺伝子の発現制御機構を調べていくことが可能と思われる. 3.レトロウイルス感染による脳内への外来遺伝子導入;レトロウイルスベクターにクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を挿入したものを作製し, 出生直後のマウス小脳の初代細胞へのウイルス感染を行った. その結果, CAT活性が安定に発現されることがわかった. また, サザン法により外来遺伝子が導入されていることも確かめられた. 今後, これら基礎検討をもとに, 脳内への遺伝子導入を試みる. なお, マウス脳cDNAバンクを作製し, 脳特異的cDNAクローンをいくつかスクリーニングした.
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