モンゴル国では,乾燥かつ寒冷という厳しい気候ゆえに,基幹産業である遊牧がゾド災害(寒雪害)に繰り返し脅かされてきたが,家畜への被害は異常気象の条件が類似した近隣地域でも大きく異なる.本研究では,2009/2010年ゾドによる家畜被害に大きな違いが認められたOvorkhangi県のTaragt郡(家畜死亡率約71%)とNariinteel郡(家畜死亡率約15%)を対象に,その地域差をもたらした社会的要因を牧畜気象データ・社会経済統計データの解析と牧民へのインタビュー調査により解明することを目的とした.夏の降水量・冬の気温と積雪量からみると,Nariinteel郡のほうが厳しい気象条件であった.しかしながら,そこで家畜死が大きく抑えられた理由として,夏から冬へと季節順に以下の5点があげられた.(1)毎年行う季節移動の回数が多く,距離が長いこと,(2)夏に計測した過放牧率が比較的小さかったこと,(3)ゾドに備えて家畜販売や飼料の備蓄を積極的に実施したこと,(4)冬用の草地を確保するため冬営地への移動時期を遅らせたこと,(5)冬営地やゾドに対する避難場所として山地の比較的温暖な風下中腹斜面を利用したこと.まとめると,地域の自然状況・市場経済状況に基づいた能動的家畜管理はゾド被害を低減する有効な手段になりえると考えられた.