ラジカル生成過程の観測と追跡を可能とする高精度電子状態理論の開発
Project Area | Green Catalysis Science for Renovating Transformation of Carbon-Based Resources |
Project/Area Number |
23H04911
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Research Category |
Grant-in-Aid for Transformative Research Areas (A)
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Allocation Type | Single-year Grants |
Review Section |
Transformative Research Areas, Section (II)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
横川 大輔 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90624239)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西本 佳央 京都大学, 理学研究科, 助教 (20756811)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Project Status |
Granted (Fiscal Year 2024)
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Budget Amount *help |
¥54,340,000 (Direct Cost: ¥41,800,000、Indirect Cost: ¥12,540,000)
Fiscal Year 2024: ¥14,560,000 (Direct Cost: ¥11,200,000、Indirect Cost: ¥3,360,000)
Fiscal Year 2023: ¥4,420,000 (Direct Cost: ¥3,400,000、Indirect Cost: ¥1,020,000)
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Keywords | 開殻系量子化学計算 / ラジカル発生過程 / 分光学的アプローチ / 量子化学計算 |
Outline of Research at the Start |
本研究では、これまでの理論化学のようにラジカル分子を「観る」ことだけではなく、ラジカル安定性をいかに「制御」すればよいかを提示することまでを目標とする。ラジカルを「観る」研究では、高精度量子化学計算と密度汎関数強束縛法により、化学反応過程に沿ってラジカル状態を観ること、電極反応におけるラジカル生成のダイナミクスを観ることを目指す。ラジカルを「制御」する研究では、機械学習の一つである能動学習による効率的学習モデルの構築と、ラジカル安定性によって分類されたラジカル分子のデジタルライブラリー構築とその利用を目指す。
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Outline of Annual Research Achievements |
ラジカル反応は官能基に依存せず、広範な資源を原料とした真に持続可能な物質生産を実現する力を秘めており、その潜在的有用性ゆえに、合成化学や理論化学等で長く研究されてきた。しかし、各分野の長足の進歩にも関わらず、ラジカルを理解し、その反応制御を真に実現するには至っていない。そこで本研究ではラジカル分子を「観る」、ラジカル分子を「制御」できる理論的アプローチを計測科学・合成化学を専門とする研究者と協力しながら提案することを目的とする。 本年度はラジカルを観るための理論開発【研究1】、ラジカルを制御するための応用研究【研究2】を進めた。以下では【研究1】、【研究2】について個別に説明する。 【研究1】ラジカルを実験的に観る上で、分光学的アプローチは重要な役割を果たすはずである。しかし、ラジカル分子は存在時間も短いため、精度良く測定できることは望めない。そこでスペクトルの高精度予測を行うことができる理論の開発を進めた。 【研究2】ラジカルを制御するための応用研究は、主に実験研究者との協創研究を通して進めた。例えば東京大学金井研究室との協創研究では、化学励起を利用したアミロイド繊維の酸化反応におけるラジカル発生過程を、(時間)密度汎関数理論、制限開殻Hartree-Fock(ROHF)に基づく摂動法(ZAPT)を駆使して解析した。さらに、溶媒効果について励起状態に及ぼす影響を当研究室で開発してきたRISM-SCF-cSED法を用いて検討した。その結果、化学励起後のエネルギー失活課程が溶媒の極性に大きく影響を受けていること、アミロイド存在下では化学励起で得られたエネルギーが酸素酸化に効率的に用いられていることを明らかにした。この研究以外にも、水素移動反応(HAT)触媒の性能を定量化するための適切な物理量の提案、電極反応を利用した化学反応における反応メカニズムの定量的解析なども行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論開発においては、溶液内の紫外・可視吸収スペクトルの線幅も含めた理論予測を可能となる理論の構築ならびにプログラム開発を行った。得られた結果については、当研究室の学生である根岸がThe 5th conference of Theory and Applications of Computational Chemistry (TACC)にてポスター発表を行いポスター賞を授与されている。また得られた研究成果は、アメリカ化学会誌「The Journal of Physical Chemistry B」にて報告している。論文中の分子は中性分子であるが、開発した手法はラジカル分子にも適用できるものであり、今後の協創研究でも生かせるはずである。これ以外にも、振動分光スペクトルを高精度に再現できる手法の開発、電極界面における有機分子の酸化反応を追跡するための理論開発をすすめており、理論開発に関しては概ね順調に進展していると考えている。 ラジカルを制御するための応用研究では、実験研究者との協創研究を積極的に進めている。すでに論文投稿を終えているものが1件、投稿直前のものが1件、現在進行中のものが3件あり、本学術変革研究が始まって1年しか経っていない点から考えても極めて順調に研究が進んでいると言える。これらの協創研究で理論研究を進めていくと、実験グループで当初想定していた解釈と異なる結果が得られることが多々あった。このような場合であっても、ZOOMによるオンライン会議や本学術領域で定期的に開催されている領域会議において意見交換を重ねることで、よりもっともらしい解釈を提案することに成功した。理論と実験の長所を生かすことで、当初考えていたよりもラジカル研究を大きく促進させることができるということがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
理論開発では、(i)電極界面における有機分子の酸化反応を追跡するための理論開発、(ii)ラジカル分子も含めた溶液内分子のラマンスペクトルの解析を可能にする手法の開発を積極的に進める。(i)については研究分担者である西本が2023年度の段階で、本理論開発で必要となる2次元周期境界条件付き密度汎関数強束縛(DFTB)法の開発は終えており、2024年度は1電子移動を扱えるようにDFTB法を改良する予定である。(ii)の振動分光に関する理論開発については、分子サイズの問題を克服するため、理化学研究所の八木らが開発してきた分子振動計算プログラムであるSINDOと、当研究室が開発してきた溶媒和理論であるRISM-SCF-cSED法を組み合わせる予定である。これにより、溶液内分子のラマンスペクトルの高精度予測を可能にすることを目指す。 応用研究では、実験研究者との協創研究を引き続き進める。2023年度は計画班内での協創研究のみであったが、2024年度は公募班の先生方との協創研究も積極的に進める。これらの協創研究を通して、ラジカル研究における新規理論の必要性についても検討する。 2024年度は上記の実験研究者との協創研究以外に、2023年度に開発した「溶液内の紫外・可視吸収スペクトルの線幅も含めた理論予測を可能とする理論」、「振動分光スペクトルを高精度に再現できる手法」を組み合わせて、ラジカル発生過程の詳細な解析を行う予定である。具体的には、光を利用したラジカル反応におけるラジカル発生過程を、一重項・三重項状態におけるエネルギー曲面に着目しながら解析する計画である。
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Report
(1 results)
Research Products
(3 results)