Research Abstract |
市民革命並びに産業革命に起因した激動の社会的精神的状況の中で、高い理想を掲げて生涯を通じ、その人生および著作で個としての女性の真のありようを激しく、かつ執拗に追求した3人の、異なった社会階層に属する女性作家(ダニエル・シュテルン,ジョルジュ・サンド,フロ-ラ・トリスタン)に照準をあて、彼女たちが社会改革思想に献身するに至った契機と、その行動の展開を詳細にたどり、折しも興隆期にあったジャ-ナリズムとフェミニズムとのかかわりの中で社会参加の姿を浮き彫りにする。そして、彼女たちの思想と生涯が持つ現代的意義を解明することが本研究の目的である。 今年度は先ず、パリの最も洗練された貴族街フォブ-ル・サン・ジェルマンで極度に誇り高く育ったマリ-・ダグ-伯爵夫人が、サン=シモン主義に心酔した音楽家フランツ・リストとの共同文作を通して次第に、社会を構成している《大多数の持たざる者たち》に目を向け、やがて共和主義者としての信念を育み、二月革命の日々にあっては、社会主義の実現を叫んで闘う民衆の姿を浮かび上がらせた比類のない証言の絵巻を描き上げるその過程を考察した。そして、新しい社会を実現させる役割を自らも担っているという意識の下に、パリ社交界の輝かしい華でありながら、長い生涯、豊饒なペンを握り続けるダニエル・シュテルンの誕生をあとづけた。 更に、同じく二月革命前後、ジョルジュ・サンドの作品が遠く離れたロシアの地で、苛酷なワァ-リズムに呻吟している人々をいかに鼓舞し、人間本来の尊厳を教えて理想の実現に向けての希望をどれほど深く彼等に植えつけたかを、ミハイル・バク-ニンに例証を求めて論考した。
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