Research Abstract |
本研究では,不安定化学種としてのヘテロカルボニル化合物の電子構造と反応性との関連を比較検討するため,C=S,C=Se,Ge=Seの3種類の結合を持つ化合物を対称にこれらの結合の性質を検討した。 まず,モデル化合物として,安定なヘテロカルボニル基を持つジ-t-ブチルケトン系列のケトン(1),チオン(2)およびセロン(3)を選び,それらの光電子スペクトルを測定し,その分子軌道について反応性との関係を考察した。いずれの化合物についても再高被占軌道はヘテロ原子の非共有電子軌道(n軌道)を主成分とする分子軌道があり,原子番号と共にエネルギ-準位が上昇し(実験値8.88(0),8.12(S),7.99(Se)eV),分子振動によるピ-ク幅の広がりが減少する。これは,この分子軌道の主成分が原子番号の増大と共に純粋なp電子軌道に近ずく(すなわち,炭素骨格の軌道成分の寄与が減少する)ためであると考えられる。この軌道は立体的に比較的障害のない位置にあるため,PESスペクトルでのピ-ク強度増大が著しい。一方,C=X(X=0,S,Se)π分子軌道準位は,分子軌道計算結果によれば,n軌道の下にあると予想されるので,それぞれ11.36(0),9.99(S)および9.44(Se)eVのピ-クと帰属された。すなわち,このπ分子軌道準位は,ヘテロ原子Xのp軌道準位の上昇とともに,上昇している。 また,Ge=Se結合の存在も確認された。Me_2GeCl_2によりMe_2Ge=Se(4)の3量体(5)を新規合成し,その熱分解と光分解によって,2量体が収率良く生成することから,中間体として4の存在が示唆された。5を3-Methylpentane中77Kで光照射すると,442nmに吸収を示す化学種が観測された。光照射の停止によりこの吸収は消失して5の吸収に戻る。このプロセスは可逆的で,何回繰り返しても同じ位置(442nm)に吸収が現れるので,4の吸収にほぼまちがいないであろう。
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