強磁性/非磁性、反強磁性/強磁性多層膜中に熱的に励起されたマグノン振動数の外部磁場依存性、中間層膜厚依存性について詳細な研究を行った。特に、定在スピン波構造の中間層膜厚依存性の測定から、強磁性多層間の交換相互作用の研究を行った。本研究の成果を以下に述べる。 1.FeSi/SiO_2、ZnO/FeSi二層膜 〔110〕配行させたFeSi膜について測定を行った。非磁性誘電体中間膜の場合、層間の交換相互作用は極めて弱く、ZnO膜では5A程度の膜でも層間相互作用を無視できる。ZnO膜は柱状構造を有するため、FeSi膜の配行性は良いが、中間層の挿入により誘起された界面歪によると考えられる、マグノン振動数の異常な振舞いが観測された。一方、SiO_2中間層では30A程度から層間の交換相互作用が有効に働くようになるが、FeSi膜の〔110〕配行性は良くない。 2.Fe/Si_3N_4/Fe二層膜 アモルファス状態のFeについて測定を行った。Si_3N_4中間膜の場合も、膜厚5Aで既に層間交換相互作用を無視できる。膜を450°Cで1時間熱処理してもSi_3N_4層の拡散による多層構造の変化は観測されなかった。ZnO膜で観測されたような界面歪の効果は観測されず、Si_3N_4膜は安定な中間膜材料であることが分かった。 3.PtMnSb/CuMnSb/PtMnSb多層膜 PtMnSbは室温で強磁性体であり、CuMnSbは55K以下で反強磁性体となる。室温では、マグノンスペクトルに顕著な層間相互作用の効果は認められない。しかし、ネ-ル温度以下では、強磁性層と反強磁性層の間の層間相互作用による磁気構造の変化が期待されるため、低温での測定を現在進めている。
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