Research Abstract |
世界各地の再野生化家畜(特にブタ)の分布状況,発生時期,発生要因,評価について諸情報を収集・整理した結果,次のような知見を得た。分布については,原種との関係に留意する必要があり,原種の分布域内では原種との交雑による再野生化の不鮮明さが指摘された。したがって再野生化家畜集団の分布は,原種の分布域外で顕著であった。発生時期に関しては,民族の移動や物質の交流に伴う家畜の持ち込みが背景として指摘でき,大航海〜植民・開拓時代が再野生化家畜の分布の主軸形成期として抽出された。発生要因は,飼育の粗放性,意図的な解き放ち,不慮の事故といったものに分類できた。特にfree rangingにみられる伝統的な粗放飼育とその類似環境への持ち込みが再野生化をすすめた。評価については,植民・開拓初期の補充的な意味をもつ好意的な存在から,今日の農林業への害獣としての位置づけへの変化が指摘できた。 わが国の再野生化家畜については,南西諸島と小笠原諸島を主な調査地とした。わが国のおもな再野生化家畜はヤギで,南西諸島の場合,自然繁殖にまかされる放牧がヤギの野生化と関連してきた。当地でのヤギ飼育の記録は15世紀にさかのぼれるが,free ranging型式の放牧下で,一時的あるいは長期的に管理がゆるくなった場合や飼育の放棄によってヤギが再野生化してきた。しかし,これらのヤギは状況次第で捕獲され,再飼育されることもめずらしくなかった。これは,伊平屋島,粟国島,座間味諸島などの小島群でみられ,これらの地域では家畜と再野生化家畜を連続体として動態的に把握する必要があることが指摘できた。一方,西表島や小笠原諸島(1830年にはすでに生息)のようにその後国立公園指定を受けた地域では,国有地利用が規制されるためヤギの管理は公園にゆだねられ,在来の生態系の保護上それらの駆除が進められている。その他,わが国ではブタやウシの再野生化がみられる。
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