Research Project
Grant-in-Aid for JSPS Fellows
PDF(Pigment-Dispersing Factor)は、昆虫脳において概日リズムに関わる神経ペプチドである。最近、このPDFが神経伝達物質として働くことや、神経終末のみならず細胞核でも時計機構に関与することなど、新たな事実が明らかにされた。本研究の目的は、コオロギPDFの存在様式、受容体等について解析し、概日リズム発現の分子機構を明らかとすることである。コオロギPDF前駆体はN端側からPAS、PDF領域からなる。今年度は、神経細胞内におけるPDF、PAPおよび前駆体タンパク質の存在様式を解析する目的で、PDF前駆体タンパク質の各領域に特異的な抗体を用いた解析を実施した。現在、PDFとPAPが切断を受けていない、つまり前駆体のみを特異的に認識するモノクローナル抗体(前駆体認識抗体)、前駆体から切り出しを受けた成熟PDFのみを認識する抗体(成熟PDF認識抗体)、PDF-C端アミド構造を特異的に認識する抗体(PDFアミド認識抗体)、PAP領域を特異的に認識する抗体(PAS認識抗体)を得るのに成功している。これら一連のモノクローナル抗体を用いて、コオロギ脳-視葉における免疫染色を試みた。その結果、成熟PDF認識抗体、PDFアミド認識抗体、PAP認識抗体では、いずれもlaminaおよびmedullaと呼ばれる部位に存在する時計ニューロンの細胞体および軸索を明確に染色されることが判明した。さらに興味深いことに、前駆体認識抗体では、それらのニューロンの細胞体のみしか染色されなかった。このことは、PDT前駆体は時計ニューロンの細胞体に局在しており、そこでプロセシングを受けることを示唆する。また、前駆体認識抗体と他の抗体との組み合わせによる共免疫染色を行って、前駆体ペプチドや成熟PDF、PAPペプチドの局在部位の相互関係を調べたところ、プロセシング後の成熟PDFおよびPAPペプチドはともに軸索に局在する(輸送される)ことが初めて明らかとなった。また、時間帯による各々のペプチドの存在量(免疫染色性の強度)には、有意の差は見られなかったことから、PDFのリズム発現は、プロセシング段階で起きているわけではないことが示唆された。一方、PDF受容体の同定は、放射ラベルPDFを用いた昆虫脳ホモジネートに対する結合試験を実施予定であり、現在、結合試験系確立のための条件検討中である。
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