Research Abstract |
某鉄鋼関連企業の労働現場において,酸化鉄をはじめクロム,ニッケル等の粉じん又はフュ-ムに同時暴露される労働者の間で,特に腎の尿細管機能に対する早期影響が認められるか否かを,尿中重金属の排泄動態と関連させて解析した。 上記暴露群(82名)及び対照群(31名)より,作業終了時のスポット尿を収集し,腎尿細管機能異常の早期指標である尿中NアセチルーBーDーグルコサミニダ-ゼ(NAG)活性並びに尿中鉄,クロム,ニッケル排泄量を測定して,得られた測定値を両群間で比較検討した。暴露群から得られた尿中NAG活性の測定値は全て正常レベルであったが,集団間で比べると,暴露群の方が対照群よりも有意に高値を示した。また尿中鉄,クロム,ニッケル排泄量を両群間で比べると,当然のことながら暴露群の方が高値を示した。暴露群のうちで尿中クロム及びニッケルが検出された者(検出群,36名)と,そうでない者(不検出群,46名)との間で尿中NAG活性値を比較したところ,検出群の方が若干高値を示した。次に,これら検出群36名の間で,尿中NAG活性と尿中鉄,クロム又はニッケル排泄量との相関々係を調べたところ,尿中鉄排泄量との間には有意な相関がみられたが,他の重金属との間には有意な相関はみられなかった。これらの結果から,今回の調査対象者(暴露群)において,腎の尿細管機能に対する鉄,クロム,ニッケルの複合影響の可能性が示唆されたものの,説得力のある結論を得るに至らなかった。 今後は,当該労働者を追跡調査するとともに,対象者を更に増やして数百名の規模とし,より信頼性の高い解析が出来るよう,デ-タの収集を図りたい。
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