Research Abstract |
日本の経済活動の主要な場である沖積平野の特徴の1つは,広大な三角州が少く,扇状地地形が発達していることである。この研究の課題は,日本の平野の特徴をよく表わすと考えられる扇状地を取りあげ,明治以降の農業的土地利用の時間的・空間的変化を明らかにし,その条件を探ることである。研究対象地域として中部地方の扇状地を取り上げた。 まず,中部日本の大小113の扇状地の1930年頃と1985年頃の土地利用の実態を,5万分の1地形図に着色することによって比較した。さらに土地利用図に基準メッシュをかけ,ポイントサンプリング法により土地利用種目を読み取り,数量化し,比較のための指標とするとともに,デ-タファイルとして保存することにした。 これらの作業により,扇状地の土地利用変化を類型化した結果,両年次とも水田のもの,水田から集落に変ったもの,桑畑から水田や普通畑,果樹園,,集落へ変化したもの,普通畑が水田となったもの,林地から水田や普通畑,集落へ変わったものと林地のまま変らなかったものの11の類型に分けることができた。さらにこれらをおおまかにまとめると,「水田継続型」と「農業的土地利用集約型」と「都市的土地利用転換型」の3つになった。そして「水田継続型」は日本海側に,「都市的土地利用転換型」は太平洋側に,さらに「農業的土地利用集約型」は中央高地に主に分布することがわかり,それぞれの事例として富山県黒部川扇状地,静岡県大井川扇状地,山梨県甲府盆地の扇状地群を取りあげた。その結果,扇状地における農業的土地利用の時間的・空間的変動には,自然条件と社会・経済的条件,歴史的条件などの内的要因とともに,農業技術の向上や国の経済の動き,さまざまな政策,社会状況の変化などの外的要因も重要な役割を果していることが明らかになった。内的要因のうち,積雪と水利の便,そして大都市への近接性が特に重要である。
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