Research Abstract |
日本における高度技術に由来する環境および健康リスクのマネ-ジメントについて,歴史的な概観をおこない,米国と比較した場合の特徴をまとめた。すなわち,日本のリスク・アセスメントの公的な仕組みの形成が遅れていること,コンセンサス重視の内部向けの行政指導が顕著であること,リスク見積りおよび評価に伝統的な閾値つき個別評価方式が定着していること,さらにアセスメントの結果が生産プロセスにフィ-ド・バックされる公的な効果が薄いことなどの特徴が明確となった。 7つの事例をとりあげ,リスク評価から科学技術開発に誘導的効果があったかどうかについて検討をおこなった。その結果,農薬いついて非閾値型影響への政策科学の未成熟,食品添加物に対する審査の国際的共通化の遅れ,深刻な社会事象になって始めて洗剤の無リン化のように技術開発を促す傾向,ガソリンの無鉛化にみられる強力な行政指導,有害廃棄物処分にみられる施設構造基準の強調,シ-トベルトの効用でもリスク便益分析が十分に活かされず,リスク・コミュニケ-ションにおいて技術官僚の判断に大きな信頼をおく傾向などの特徴が明らかとなった。 米国での有害産業廃棄物の投棄場のクリ-ン・アップを事後リスク回避の例として比較・評価した。リスク同定の技法の明示,対策優先づけにおけるリスク・ランキング,情報公開と学習支援プログラムの設定,リスク便益分析の採用など,リスク政策科学として成熟しつつある。 国内におけるPCB焼却を事後対策の例として比較・評価した。本年度は5年間の経過を7つのフェイズに分割し,関係者の社会的コミュニケ-ションを整理した。7つの高度技術施設に対する人びとのリスク観とともに,PCB焼却時の環境保全対策に対する支持・評価を問うことによって,人びとの高度技術リスクに対する受容の程度を予備的に検討した。
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