Research Abstract |
ヒト活性化H<ーras>___ー癌遺伝子によって癌化したマウス腫瘍EJーNIH/3T3に変異原を与えて,増殖能力の著しく抑制された正常復帰変異細胞株R1,R2を得た。これらの変異株のサイトゾ-ル画分では,分子量約92,000,等電点約5.7のタンパク質p92ー5.7が新しく発現しており,その発現量は増殖抑制の程度と相関が見られることが証明された。p92ー5.7はその分子量からアクチン調節機能を持つゲルゾリン関連タンパク質である可能性が予想されたので,抗ゲルゾリン抗体によるウエスタンブロットを行ったところ,p92ー5.7はこの抗体と反応した。しかし,R1細胞由来のタンパク質をアルカリフォスファタ-ゼで処理してもp92ー5.7は消失せず,またこのスポットにリンの取り込みも見られなかった。このことから,p92ー5.7は既存のゲルゾリンのリン酸化によって生じたものではなく,ゲルゾリンの変異体あるいはゲルゾリン様タンパク質であると考えられた。さらにゲルゾリンmRNAの発現をノ-ザンブロット法で調べたところ,R1,R2においてEJーNIH/3T3よりも高い発現が認められた。ゲルゾリン遺伝子のサザン解析では,遺伝子の再編成あるいは増幅は見られず,R1細胞におけるゲルゾリン遺伝子発現の亢進はこれら以外の原因によるものと考えられた。そこで,R1のcDNAライブラリ-より得られたゲルゾリンのクロ-ンについて解析したところ,R1のゲルゾリン遺伝子には突然変異がおこっている可能性が示唆された。これらのゲルゾリン遺伝子の変化に伴って,R1細胞においてはEJーNIH/3T3細胞で消失したαーアクチンの遺伝子発現がNIH/3T3細胞レベルに回復した。これらのことから,アクチン調節タンパク質のひとつゲルゾリン遺伝子の発現は細胞増殖を制御する上で重要な役割を持っていることが示された。
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