有機イオウ化合物のうち、高酸化状態のスルホン化合物は、含イオウ化合物が一般に有する悪臭もなく、結晶性で取り扱い易い化合物であるにも拘らず、これまでその有機合成上の潜在力が十分に発揮されてこなかった。そこで、申請者らは従来、種々のスルホン化合物の位置および立体選択的な合成法並びにスルホニル基に特徴的な新合成反応を開発し、天然有機化合物の合成などへ積極的に活用してきた。本年度は、先に開発したビニル型スルホンの位置および立体選択的合成法の開発に引き続き、(E)ーおよび(Z)ーアリル型スルホンの位置および立体選択的合成法を開発した。特に(Z)ーアリル型スルホンの合成は、アルキンのヨ-ドスルホン化によって容易に得られる(E)ー2ーヨ-ドー1ートシルー1ーアルケン(I)から誘導されるプロパルギルスルホン誘導体のシス還元によって達成されたが、(I)は更に1ートシルー1ーアルキン並びにその二量体の合成、βートシルエナミンやその加水分解によるαートシルケトンの合成、アルキル銅試薬にるβーアルキル置換ビニル型スルホンの立体特異的合成など、種々の有用なスルホン誘導体調製のための優れた合成中間体となり得ることを明らかにした。 一方、先にビニル型スルホンのアリル型スルホンへの変換を研究する過程で見い出した「Syn効果」の本質解明のために、スルホン化合物の優れた結晶性を利用し、種々のビニル型スルホン並びに関連化合物の調製とそのX線構造解析を行い、ビニル型スルホン自体がsynーコンホメ-ションを有しているという大変興味深い事実を発見した。更に、結晶性の末端オレフィン化合物を調製し、これらのX線構造解析の結果から、オレフィン一般がsynーコンホメ-ションを有している可能性が高いことを明らかにした。また、いわゆるCram則に関連して、カルボニル化合物のX線構造解析も行い、この経験則に対する新規な考え方を提案した。
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