Research Abstract |
プロプラノロ-ルの主薬理作用であるβ遮断効果はl体の方がd体より約100倍強い事が動物実験で報告されているため、ラセシ体プロプラノロ-ル濃度では明確な体内動態及び薬理効果の解析が困難であると考えられる。そこで我々はcellulose triphenylcarbamateを担体とした光学異性体分離カラムを用いて高速液体クロトグラフィ-による血漿中及びラット組織中のプロプラノロ-ル光学異性体の直接分離法を開発した(H.Takahashi,et al.,J.Pharm.Sci.,1988)。次にこの定量法を用いて、ラットにラセシ体,d体,及びl体プロプラノロ-ルを静脈内投与し,血漿中,各臓器中(肺,心,脳,腎,筋肉,消化管),肺及び心の組織分画中に存在するプロプラノロ-ル光学異性体の濃度推移を検討した。その結果,測定したすべての組織において,その分布に立体選択性が存在する事を確認した(H.Takahashi et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.,1990)。この立体選択的組織分布をひきおこす要因としてプロプラノロ-ル光学異性体の血漿蛋白への結合特性に注目して検討した結果,各異性体は共に血漿との結合において2種の結合サイトを有し、その特異的結合サイト上において各異性体同士が競合的に阻害しあう事が明らかとなった(H.Takahashi et al.,Biochem.Pharmacol,1990)。その結果,プロプラノロ-ル光学異性体の血漿蛋白結合率の相違を補正してその組織分布性を評価すると異性体間で認められた有意差は消失した。以上の事より,見かけ上認められるプロプラノロ-ルの立体選択的組織分布は主に各異性体の血漿蛋白結合率の相異による事が判明し,また,組織へのとりこみあるいは組織結合性は両異性体間で差がない事が推察された。
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