Research Abstract |
南西諸島のヤギの古記録としては,1470年代末の与那国島から沖縄本島に至る島々の様子を述べた『李朝実録』に,当時沖縄本島でヤギが飼育されていたことが記されている。当地では,ヤギの伝統的な飼育形態の1つとして,自然繁殖にまかされる粗放的な放牧がみられる。そのため,一時的あるいはかなりの長期の間,人間の管理が緩くなったりあるいはなくなったりした場合に,再野生化状態のヤギが発生してきた。しかし,南西諸島の場合,今日までのところ小笠原諸島のように長期間にわたってヤギの再野生化が継続しているような事例はないようである。 放牧の粗放性などから再野生化状態になったヤギは,今日西表島,石垣島,伊平屋島,粟国島,座間味島,トカラ列島などでみられる。これらのヤギに対しては,所有権の主張が依然としてみられるものから所有権の主張がなくなったものまで差異が認められる。また,所有権の主張自体も逆に強弱がみられる。 粗食に耐え飼育も比較的容易であるヤギは,自然繁殖にまかせて飼育できる家畜としてマ-ジナルな島しょ部で重要な存在であったが,今日ではヤギの持つ飼育価値の低下により全体的に人間の管理が緩くなっている。そのため,所有権の主張の弱体化が生じ,所有権の主張に強弱が認められるようになっている。そして,それによってヤギの再野生化状態にも段階が認められ,今後長期間にわたって再野生化が継続する事例が一部で発生する可能性がでている。ヤギが長期間にわたって再野生化状態になっていくことは,ヤギを自然繁殖にまかせた放牧形式で飼育してきた南西諸島の伝統的なヤギ飼育文化の衰退を暗示するものである。
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