Research Abstract |
視覚パタ-ンのカテゴリ-化に関する従来の研究は,幾何学的図形やドットパタ-ン,図式的な顔といった人工的な刺激図形を用いており,動物や植物といった自然界の視覚パタ-ンのカテゴリ-化に関する研究はほとんど行なわれていない.本研究は,自然界の視覚パタ-ンである蝶を刺激として使用し,そのカテゴリ-化を規定する要因を実験的に明らかにすることを目的とした.まず,蝶図形のプロトタイプを設定し,それに変換規則を適用して各事例を作成した.こうしてできた事例を用いて,Franks & Bransford(1971)と同様のやり方で一連の学習再認実験を行った.実験結果は,次のように整理できる.(1)変換次数の増加にともない確信度が低下するという幾何図形を用いた研究と同様の結果は得られなかった,(2)再認確信度に強く影響するのは,実験者が定めたプロトタイプと各事例との主観的類似度でもないし,変換次数でもなく,Rosch,E.らが日常的カテゴリ-化においてその重要性を指摘している家族的類似度(FRS)である,(3)蝶図形を構成する各物理的特徴の再認確信度に及ぼす影響度は一様でなく,前翅,後翅の影響度が大きく,主観的類似度判断への影響度が一番大きかった色の影響度は,再認実験では低下した.(3)については,前翅・後翅の模様という特徴の,蝶類(正確には鱗翅目)における分布を考えることによって説明できる.すなわち,前翅・後翅の色彩班紋は,同一の科に属するものであれば,かなり共通しており(擬態や変異は別として)また,ある科に属する蝶の翅に頻繁に出現する班紋は,その他の科の蝶ではそれほど出現しない。従って,我々にとって顕著な特徴は,蝶を区別する上でも妥当な手がかりでもある.このように,実験室外の、自然界における特徴の分布に関する日常的知識が,本実験における被験者の蝶図形の認知に影響を及ぼし,その結果,各特徴の貢献度に差をもたらしたと考えられる。
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