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¥1,700,000 (Direct Cost: ¥1,700,000)
Fiscal Year 1991: ¥1,700,000 (Direct Cost: ¥1,700,000)
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Research Abstract |
高純度n型GaAsの低温(4.2K)でのIーV特性は中性不純物の衝突電離アバランシェ過程によりS字形となる。この特性(一次相転移)は,直流電場Eのもとでは安定でEの関数として典型的なヒステリシスを示す。この場合,E>E_bでフィラメント電流がオ-ミック電極間を流れE<E_hでフィラメント電流が消滅する(但し,E_b:ブレ-クダウン電場,E_h:保持電場;E_b>E_h)。これを縦磁場中で測定すると,磁場強度B(<0.3T)の増加とともに高電場側にシフトする。プレ-クダウン電場はほぼ一定に保たれ,その結果ヒストリシス幅E_bーE_hが狭くなる。さらに磁場強度Bを増加させるとブレ-クダウン電場と保持電場が逆転し(E_h>E_b),B>50mT以上でspontaneousな電流振動とカオスが観測される。本研究において,我々はこの新しい相転移現象の物理的起源を明らかにし,相転移に伴って生じる電流振動の分岐過程とカオスの統計力学的性質を明らかにすることを目的とした。 GaAsはcubic構造の半導体であり,縦磁場効果はないと考えてよい。我々はこのことを考慮し,フィラメント電流の空間パタ-ンを低温走査電顕法により調べた。その結果,フィラメント電流はオ-ミック電極近傍で湾曲していることが判明した。この湾曲によりフィラメント電流は縦磁場により局所的に磁気抵抗効果をうけ不安定になると考えた。縦磁場中でフィラメントが安定に形成されるためには,より高電場を必要としそのために保持電場が高電場側にシフトすると解釈される。一方,オ-ミック電流は縦磁場と平行であるので磁気抵抗効果を受けない。フィラメント電流が受ける局所的磁気抗抗効果を取入れ,衝突電離モデルの数値シュミレ-ションをおこなった。その結果,二重S字形IーV特性が得られ,磁場強度とともにヒステリシス幅が狭くなりB>0.143T以上でspontaneousな電流振動とカオスがシミュレ-トされた。我々はこの不安定性をクロスオ-バ-不安定性と呼んだ。このような相転移現象は今までに報告がなく,カタストロフィ理論の立場からも興味深い。今後,引続き研究を進展させもう少しglobalな立場でこの相転移現象を記述してゆきたい。 カオスの統計力学的性質については,主としてf(α)スペクトルにより解析をおこなってきた。磁場強度をコントロ-ルパラメ-タとしたとき,クロスオ-バ-不安定性において周期倍分岐によるカオスが観測された。その結果をモデルシミュレ-ションの結果と比較し,回路系に入り込む外部ノイズの影響を調べた(Phys.Rev.B45(1992)3830)。実験で得られたf(α)スペクトルはαの大きい所でブロ-ド化し,外部ノイズのcontaminationが顕著であることを示している。同じ実験系で,ゼロ磁場中での交流駆動カオスではそのf(α)スペクトルはファイゲンバウムアトラクタ-のものとよく似たスペクトルが得られている。このことはフィラメント電流が外部摂動(ノイズを含む)に対して極めて敏感であることを示している。
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