Research Abstract |
魚類網膜の外顆粒層には,桿前駆細胞が散在しており,それは正常では桿細胞の新生に関与している。しかし,一旦神経網膜に変性(細胞脱落)が生ずると,直ちに他種の網膜細胞に分化成長する潜在的な能力を秘めている。魚類網膜の再生が速やかに行われる所以である。本研究では,このような魚類網膜の特徴に着目して,6ーOHDA,ツニカマイシン(TM),神経成長因子,サイトカインなどを金魚の1側眼球内に注射投与し,核内増殖抗原(PCNA)陽性細胞の動態を,時間経過(注射後2〜90日)を追って,両側眼球からの網膜伸展標本上で密度を算出し,統計的に精査した。PCNAは免疫組織化学的に検出した。(1)注射側網膜において,6ーOHDAはド-パミン細胞を,TMは視細胞を,それぞれ選択的に破壊するが,注射後3〜20日に亘って,PCNA陽性細胞の群生化と密度の急増を起こし,高密度の状態は60日間にも亘った。非注射側では各種網膜細胞は正常であるが,PCNA陽性細胞の密度は,注射側の変化とほゞ平衡して増加を示した。これらの密度増加は,注射前の対照値と比較して明らかな有意差を示した。(2)TM投与群では,視細胞の破壊と再生の経過は,眼盃標本から記録した網膜電図(ERG)のb波振幅の消長とほゞ軌を1つにした。(3)再生過程にある網膜での,H^3ーチミジン取り込みのオ-トラジオグラフ法による分裂S期細胞の検出は,PCNA陽性細胞の動態とほゞ対応する知見を得た。(4)細胞破壊またはそれに伴う浸潤細胞胞(マクロファ-ジやミクログリア)がある種の化学物質を放出し,それが桿前駆細胞の分裂を促進すると想定し,FGFやサイトカインを眼球内に投与した。網膜細胞は脱落しないが,PCNA陽性細胞の群化と密度上昇が惹起された。(5)以上の知見から結論を出すのは早尚であるが,6ーOHDAとTM投与の実験デ-タは,2つの論文(Ref.1と2)に記述的にまとめて発表した。
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