本研究の目的は、赤血球膜成分のグリコホリンに対する抗体を用いた免疫組織化学の手法によって、生前の出血と死後の血色素浸潤による皮膚変色の異同を組織レベルで染め分け、それを画像処理によって定量化し、法医解剖の実務に役立てることにある。 1.方法 法医解剖例の皮膚から生前の出血部分14検体、血色素液浸潤部分5検体及び死斑部分6検体を採取し、ホルマリン固定・パリフィン切片を作成した。次に、ヘマトキシリン・エンジン(HE)染色及び抗グリコホリン抗体を一次抗体、ビオチン標識抗ウサギIgG抗体を二次抗体とするストレプトアビジン・ビオチン法による免疫組織化学法を行った。さらに、光学顕微鏡で観察し、検体の異同を検討した。 2.結果及び考察 生前の出血部分については、腐敗の認められない検体においてはHE染色のみで皮膚組織間に出血の確認が容易に出来たが、死後経過時間が1週間前後で腐敗が高度な検体においてはHE染色では出血の確認は出来なかった。しかし、免疫組織化学法を行うことによって、腐敗が高度な検体においても皮膚組織間に陽性部分が認められ、出血を確認することが出来た。一方、血色素液浸潤部分及び死斑部分については、HE染色では皮膚組織間に出血は認められず、免疫組織化学法でも陽性部分は認められなかった。 抗グリコホリン抗体を用いた免疫組織化学法によって皮膚組織間に陽性部分を見つけることで、生前の出血を血色素液浸潤部分と死斑部分から鑑別することは可能であった。現在、顕微鏡を画像処理装置LUZEX5000に接続して二値化画像を求め、陽性部分のみを選択し、視野に占める陽性部分の面積率を求める研究を行っている。
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