Research Abstract |
発達中の大脳は放射線に対する障害感受性が高く,ヒトと実験動物に共通して,神経細胞の遊走障害による異所形成が起こる。神経細胞の遊走障害感受性が高いのは,未分化神経上皮から神経細胞への分化が決定した直後なのか,分化するための最終DNA複製期かを,マウスをもちいて調べた。 マウスの妊娠17日午前10時をγ線0.24Gy(およびsham対照)被曝の時刻とし,次の2群,(1)午前9時30分にブロモデオキシウリジン(BrdU)を母体に注射したので,標識細胞はγ線被曝時に細胞周期のS期にあった。(2)γ線被曝12時間前にBrdU投与したので,標識細胞はγ線被曝時に細胞周期のGo期にあった;についてγ線被曝9時間後の胎仔,生後20日,生後6週の仔獣大脳組織切片を免疫組織化学染色して観察した。 γ線被曝9時間後の観察で,被曝群の細胞死頻度は対照と比べて大差なく神経細胞の減少は無視できる程度とみなされた。 生後20日の観察では,皮質原基内の標識細胞数が(1),(2)群ともγ線被曝群で少なく,0.24Gyの低線量でも神経細胞の遊走障害が確認された。(1)群の方が皮質原基内の標識細胞数は少なかった。生後6週まで成長した大脳皮質の観察で,(2)群ではγ線被曝群と対照群の両群とも標識細胞の多くは皮質第IIーIII層にあり,群間の差は認められなかった。(1)群ではγ線被曝群で皮質第IIーIII層の標識細胞がやや少なく,第1V層やV層にみられる標識細胞がやや多かった。以上,生後20日および6週の観察から,被曝時に最終DNA複製期にあった神経細胞の遊走障害感受性は,被曝時に既に分化が決定している細胞の感受性より高いことが示唆された。
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