Research Abstract |
本研究では、SROの初期発生への影響、特に神経細胞の形成や神経構築への影響を調べるための方法を開発し、神経形成異常突然変異胚への影響を詳細に解析した。胚を固定後、神経細胞を特異的に染色する抗HRP抗体で染色した後、0.001%トルイジンブル-で胚全体を薄く染色し、蛍光顕微鏡で抗HRP抗体で染色性の違いなどを確認した上で、胚発生全体への影響をノマルスキ-微分干渉顕微鏡等で調べた。また、通常の組織切片による観察において従来の固定法では、神経芽細胞と外胚葉性の細胞の区別が困難であるが、前固定をメタノ-ル法で行うと外胚葉性の細胞や神経芽細胞などが細胞質の染色性等により容易に識別できる。この方法により、SROの胚を調べると、神経芽細胞形成直後では、確かに細胞死は神経芽細胞のみに見られるが、その後外胚葉性の細胞も細胞死を起こしていく事が判明した。その後この様な胚では体節化が起らず、胚は正常なものに比べ胚全体が萎縮する事も分かった。神経形成に関しては、神経芽細胞が形成直後に細胞死を起こすにも関わらず、その後の発生において、神経細胞は完全にはなくならずに、しばらくは各体節ごとの規則性は保たれている事が判明した。しかし正常な胚と比べると染色性は大幅に減少していた。これは、SROの致死作用が必ずしも全ての神経芽細胞に及ばないのか、あるいは、死滅した神経芽細胞の代わりに外胚葉性の細胞が決定の変更を受けて2次的に神経細胞へと分化した可能性がある。この点に関しては今後の解析が必要である。 外胚葉性細胞を神経細胞に変更させる事で知られるneurogenic mutantsに対するSROの影響に関しては、mastermind,neutralizedをヘテロに持つ系統にSROを感染させ、常に雄の出現が完全に抑えられる系統を作成し、その系統の生む卵の発生を調べた。neurogenic mutationをホモに持つ胚、ヘテロに持つ胚でそれぞれ雌雄があるが、抗HRP抗体で染色すると、それぞれの遺伝子型と性別が明瞭に区別され、しかも、ホモ接合体で雄の胚が最も大きな傷害を生じている事が分かった。また、胚全体が異常に萎縮し、神経細胞の大幅な減少と規則性が完全に失われてしまっていた。この事は、明らかにSRO特異的な致死作用を証明していると考えられる。
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