Research Abstract |
今回の重点領域研究におけるわれわれの研究の目的は,歯の形態学(人類学)の立場から,環太平洋のモンゴロイド諸集団の関係を明らかにすることである.そのため,日本国内および国外の東アジア,アメリカ地域,太平洋地域のモンゴロイド系集団の歯を3,300個体あまり調査し,歯の計測的および非計測的データを採取し,多変量解析によって系統関係を検討した. 日本列島においては縄文人・アイヌ系集団(スンダドント)と渡来系弥生人・歴史時代日本人(シノドント)という2つの集団の系譜が明瞭なものとなった.前者は先史時代の東南アジア人の,後者は中国北部およびアメリカ地域のモンゴロイドの系譜に含まれることが明らかになった.モンゴロイド集団の中で2分されるスンダドントとシノドントとの関係は,日本人の成立に深くかかわっている.スンダドントの先住民にシノドントが流入し,その結果,現代日本人が形態的にはシノドントと考えられることは両者のかかわり方に深い示唆を与える.すなわち,北米大陸に渡った集団がシノドントだけであると結論するのは歯の形態学の観点から再考する必要がある.2系統のモンゴロイド系集団が先史時代と現代タイ人の間にも認められた.大陸辺縁部においても2系統のモンゴロイドの置換ないし混血が生じた可能性は高いと推測される.モンゴロイドの歯の形態小変異の三次元的な研究の有効性も指摘され,集団の単位を適切に取ればモンゴロイドの間の関係を分析する上で強力な方法であることが判明した.
|