Research Abstract |
従来のボランー金属錯体の合成法は,ほとんどが熱反応を用いるものであった。そのため,熱的に不安定なボランを出発物質として用いることが出来ないし,生成物の熱的安定性も必須の条件であった。したがって,従来のボランー金属錯体はBH_4錯体を除けば,おもに高級ボランの錯体に限られてきた。本研究では合成の際のそのような制限を除くため,最近我々が見出した金属カルボニルの光化学反応を利用したボランー金属錯体の合成法を確立するとともに,生成する錯体の構造,結合性を明らかにすることを目的とした。 BH_3PPh_2CH_2PPh_2BH_3とM(CO)_6(M=Cr,Mo)との光反応により,BH_3が一つはずれ,水素原子とリン原子でキレート配位した錯体[M(CO)_4(BH_3PPh_2CH_2PPh_2)]が得られた。通常B-P結合は相当強いので,錯体生成に際してB-P結合が切れたのは,六員キレート環生成の安定化のためと考えられる。これまで,BH_3・L(L=PMe_3,PPh_3,NMe_3)の配位に際して,金属カルボニルとしてはCr,Wの場合のみが錯体を生成し,Moでは錯体を生成しなかった。この場合にMoでも錯体が得られたことは,キレート環生成によりボラン配位の安定化が得られるためと考えられ,不安定なボラン錯体を単離するための新しい指針が得られた。 室温での結晶解析で水素原子の位置が求まっていなかった[W(CO)_5(BH_3・PMe_3)]の結晶解析を-50℃で行った。その結果,ホウ素に結合した水素原子の位置も求まり,ボランが一つの水素原子を通して金属に架橋配位していることが明らかになった。W,H,Bの相互の位置関係から,結合はW,H,B原子の三中心二電子結合からなることが確認された。現在クロム錯体についても定温での結晶解析が進行している。 今後,6族以外の金属カルボニルのボラン錯体生成に光化学反応を適用していきたい。
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