本年度の研究において、次の結果を得た。 1.既刊の『享保元文諸国産物帳集成』(16巻)所収の全産物帳の本文を翻字して、パソコンに入力した。先行研究による翻字も改めて点検し、本研究の基本資料となるべき本文を整定した。 2.上記作業と並行して、各産物帳の原写本を調査して、書誌的情報を収集し、翻刻に存する不明箇所の解明を行った。調査を実施したのは、国立国会図書館・東京国立博物館所蔵の各写本と、金沢市立図書館の関係資料及び加越能三国の産物帳である。 この調査の過程で、金沢市立図書館所蔵の『享元塵餘志』の中に産物帳の作成事情を物語る新資料を見出した。丹羽正伯が諸大名に産物帳の編纂を命じた日付を記した覚書である。これにより、産物帳未発見の藩についても、関係資料の調査範囲を絞ることができる。 3.作成した整定本文を記事毎に切り出し、国名・産物帳名・分類・所在などの付加情報を加えて、データ・ベースで利用可能な形に整えた。当初、西日本諸国のものには読み・標準名を付したより充実したデータを作成することを期したが、記事の考証が予想以上に困難を極め、不十分とならざるを得なかった。 4.整定本文から、比較的考証が易しい作物「黍・唐黍・玉蜀黍・唐辛子・茄子・蠶豆」、草類「蒲公英・繁縷・車前」、木類「合歓木」、虫類「蝸牛・蛞蝓」、蛇類「蛇・蝮」など20種の記事一覧を作成したが、今後の考証により修正されるべき点が残っている。一覧の解釈は今後の課題であるが、現代の言語地図が示す分布を250年以前に遡らせる事実が含まれている、との見通しを得ている。
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