Research Abstract |
ソフトウエア不況という厳しい制約の中で,比較的協力的であったユーザー系受注ソフト開発企業および独立系パッケージソフト開発企業が,調査の主たる対象となった。以下では,紙幅の都合と入手情報の精度から,後者の一事例について,その要点のみを示す。 日本語ワープロソフトで有名なJ社は,92年4月現在,社員総数575名,売上高約98億円,売上高利益率約20%優良企業である。ソフト開発は、プロジェクト・チーム制で行われ,1チーム(約30名)は,1人のリーダー,数人のサブ・リーダー(機能別),および多数の一般メンバーから成り立っている。大卒者は,入社後6ヶ月間はoff-JTなどの基礎的研修がなされ,プロジェクト・チームに編入される。約3年後から能力の差異が現出し,サブ・リーダー(係長相当)になる者とそうでない者が区別される。リーダー(課長担当)へは,その後,能力別に1〜4年の幅で昇進する。リーダー以上は,シニア・マネジャー(次長相当)およびディレクター(部長・取締役相当)の上級管理職となり,プロジェクトを総合的に管掌する。他方,リーダーからは,部下を持たないスタッフ(研修や応援等を担当)としての専門職コースがある。また,賃金体系の主要項目は,ボーナスの基礎となる基本給と技能手当,および特別手当等である。基本給は,学歴・年齢・能力(5階段)によりランクづけされ,技能手当は,査定により貢献度別に細かく分けられている(最近3万円,5千円きざみ)。基本給と技能手当の比率は,約2:1である。また,特別手当(技能手当に同じ額)は,業務遂行上の献身度合によって支給され査定の対象となる。技能手当と特別手当は,スタッフ的リーダーには支給されない。さらに,公的な技能資格は、賃金上にまったく反映されない。このような個人能力と社会業績を重視する労務管理制度のもとにあっても,ソフト開発職の離職率は,1%にも満たない。
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