心筋Ca^<2+>チャネルのAキナーゼ系による細胞内調節機構の発生変化に関するこれまでの研究で、β受容体とCa^<2+>チャネル間の共役関係のギャップが見られた。このギャップ機序を明らかにする目的で、cAMP量とホスホジエステラーゼ(PDE)活性を胎仔・新生仔・成熟仔ラット心室筋で測定した。cAMP量は胎仔18日齢より増大し、新生仔6日齢でほゞ最大となり、以後18日齢までそのレベルを保ち、その後30日齢、成熟仔と漸次減少した。この経日変化はβ受容体のそれとほゞ一致した。しかし、Gs蛋白量の経日変化(胎仔16日齢より新生仔16日齢までは漸次増大し、以後減少し、20日齢で成熟仔レベルに達する)とは、最大値到達日などの点で異なっていた。粗PDE活性(組織重量当り)は、胎仔18日齢より新生仔6日齢までは高い値を保ち、12日齢より徐々に減少し、30日齢でほゞ成熟仔レベルに達した。この経日変化はこれまで検討したβ受容体数、Gs蛋白量、Ca^<2+>チャネル数、イソプレテレノール誘発緩徐電位(ISO-SAP)のそれらと異なるものであった。なお、Ca・カルモジュリンで活性化されるI型PDE活性の経日変化は粗PDE活性のそれと一致したが、cMGPで抑制されるIII型PDE活性は胎仔期〜出生日までは見られず、新生仔3日齢以降で、成熟仔と同様な活性の抑制を見た。これまでの成績をまとめると、生後1週間で最大値に達するものはβ受容体数とcAMP量、生後2週間で最大値に達するものはGs蛋白量、Ca^<2+>チャネル数、ISO-SAP、生後生長と共に減少するものはPDE活性であった。以上のことより、これまでの成績で見られた(β受容体)と(Gs蛋白、Ca^<2+>チャネル、ISO-SAP)間に見られた共役関係の発生学的ギャップは、本実験より、(β受容体、cAMP)と(Ca^<2+>チャネル、ISO-SAP)間に存在することが分かり、このギャップをPDEが調節していることが強く示唆された。
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