Research Abstract |
今回の調査研究で判明したことはつぎのとおりである。 1.初期には、ガリレオのコンパスが軍事を目的としたものであることも影響して、軍事用が多かったが、やがてその使用目的が工学用に変わっていった。特に製図,測量,日時計制作に多く用いられた。なかには航海用,建築用,測量用の特殊な比例規まで考案された。このことは戦争術や兵器が変化したことが原因のほか、工学という新しい学問分野の成立にもよる。2.使用目的に関しては、フランスだけは例外である。そこでは軍事用の比例規が作られ続けた。軍事要塞,兵隊教育等はフランスは独自の方法を取ったからである。3.18世紀から19世紀にかけての百科事典,数学事典はかなりの部分を比例規の記載にあてていることからも、その器具はかなり普及していたことが裏付けられる。とくに18世紀に著しい。また専門技術者のみならず、一般レヴェルでも広範に用いられた。4.広範な需要があったので、英国では制作者は他の「数学 器具」、つまり計算尺,製図用具等を扱う者達と共に組合を形成し、また彼ら制作者の多くは世襲制をとった。こういった組合の中で使用目的は製図に限定されていく。5.制作の中心地は、当初ニュルンベルクなど南部ドイツであったが、ロンドンにおける中流階級の実用数学者層が形成されていくにしたがって、そのロンドンが確固たる制作の中心地となる。彼ら実用数学者達は新しい比例規を考案したり、新しく生まれた数学愛好者層に使用法を教授したりしたのである。 今後の研究課題としては、今回は調査できなかったオランダ型の比例規の成立、展開を研究せねばならない。英国,フランスとは異なるものであり、またおそらくは日本にも影響を及ぼしたであろうからである。また、16,17世紀には数学の確実性,実用性をめぐって論争がなされたが、その際の比例規の位置づけの考察である。というのも、幾何学は本来は土地測量であるが、比例規の成立以降、領域が拡大して、計測一般をも意味するようになり、やがては新しい汎測量学(パントメトリア)という用語が成立したからである。
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