Research Abstract |
タンパク分子の運動を電気的に制御することができれば,タンパクの分析・分離に関する技術に新しい測定法をもたらすのみならず,将来の分子機械(ナノマシン)などの構築の有力な手段となりうることが予想される。本研究においては,交流静電界の効果ー誘電泳動ーにより,水溶液中のタンパク分子の運動を制御すること主たる重点を置いて研究を進めた。その成果の概要は,以下のようである。 電界中でタンパク分子を誘電泳動させるには,ブラウン運動に打ち勝つだけの電気力がなければならないが,マイクロマシーニングの技術を用いて製作された数μmの大きさを持つギャップ中に発生する高周波高電界はこれに十分な力を供給することを示した。また,従来,ジュール損のために急激な温度上昇がおきてしまうので,10^6V/mを超える定常電界の生体高分子水溶液に与える効果の観察は困難であるとされていたが,本年度の研究においては,(表面積/体積)の比の大きいマイクロギャップ中の電界を利用すれば,この問題も克服できることを示した。 次に,この基本技術を応用して,タンパク分子のパターニングの技術と,分離分析技術を開発した。前者は,微小ギャップに誘電泳動により引き寄せられるタンパン分子がそれと対向して置かれた基板に吸着されることを利用するもので,微小ギャップを望みの形状に作ることにより,基板上に任意の2次元形状のタンパクパターンを描くことができる。後者は,多段に配列された微細電極系とそれを覆う微細流路からなり,タンパン分子の電極への引きつけられ易さの差を利用して,分子の分離・分析を行うものである。 以上により開発された手法は,生化学的分析,バイオセパレーション,分子構造の構築,脂質膜中へのタンパクパターンの形成などに応用が可能であり,本研究「静電力を用いたバイオマテリアルのマニピュレーション」は所定の成果を挙げたものと考えられる。
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