食品中の難消化性の食物繊維はエネルギー源や体組織の構成成分にならず、非栄養素の一つと考えられてきたが、人間の健康にとって有用な成分であることが近年認識されるようになった。海藻は陸上植物と比べると生育する環境が相違するため構成成分が異なり、その食物繊維の人間に対する特有な生理機能も期待される。 この研究では、褐藻のコンブについて消化率を調べ、栄養学面からの評価を行うため、ラットを用いた動物実験を第一に行った。ラットに4週間コンブ添加食を与え、コンブを加えなかった対照と比較すると、餌の摂取量は同じであったが、ラットの体重増加が顕著に少なく、また糞便量は著しく多かった。コンブ添加食により、ラットの肝臓、すい臓、腎臓の重量には変化がみられなかったが、消化管の小腸、盲腸、大腸は対照と比べ重くなった。コンブ添加食ではタンパク質のみかけの消化率は飼育初期に低かったが、後期に回復し、一方、脂質の消化率は対照より高かった。コンブ添加食の不溶性食物繊維と総食物繊維の消化率は、飼育前期に比べ後期において高い傾向を示した。コンブの主要な食物繊維であるアルギン酸塩の消化率は飼育の後期で高くなり、その分子量は飼育初期と比較すると40%と低下した。これはラット腸内の微生物が基質に適応し、酵素活性が増強したためと推察される。またアルギン酸の構成糖のマンヌロン酸は、もう一つの構成成分であるグルロン酸に比べると、分解されやすいことが明らかとなった。ラットの糞についてさらに走査型電子顕微鏡で観察したところ、飼育前期に比べ後期ではコンブ組織の断面や周辺部の表面部で崩壊が著しいことが観察された。 食物繊維の過剰摂取による栄養学上の負の効果については、ミネラルの利用率の低下が知られており、数種ミネラルに対する海藻食物繊維の影響については現在検討中である。
|