Research Abstract |
誘導性のプロモーターにつないだSV40 large T抗原遺伝子をマウス骨格筋細胞株C2にトランスフェクトして得た形質転換細胞株C2SVTでは,未分化の筋芽細胞にlarge Tを発現させると,分化が阻害される.またあらかじめ最終分化を起こして筋管細胞を形成させた後にlarge Tを発現させると,不可逆的にG0期に停止していると考えられていた細胞が脱分化をして,細胞分裂がもたらされる.分化阻害と脱分化のいずれの過程においても,Junファミリー(c-Jun,JunB,JunD),Fosファミリー(c-Fos,FosB,Fra-1,Fra-2),およびc-Mycのうちで,c-Junのみがlarge Tの発現ときわめて協調的に誘導された.このc-Junの誘導は,転写レベルで活性化されたことによるものであった.また,転写因子AP-1が結合するTRE配列を持つcollagenase遺伝子プロモーターが,large Tの発現により活性化されたことから,誘導されたc-JunはAP-1として機能していることが示された.さらに,junファミリーとfosファミリーのアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASONs)を用いた実験では,large Tを発現させた筋芽細胞におけるDNA合成は,c-jun ASONにより阻害されたが,その他のASONsでは阻害されなかった.したがって,large Tによる細胞周期の再開には,誘導されたc-JunがおそらくホモダイマーでAP-1として機能することが不可欠であると考えられる. また,筋芽細胞と筋管細胞にlarge Tを発現させても,フォスフォチロシン量の増大,フォスフォリパーゼCの活性化,Rasの活性化(結合GTP/GDP比の増大),およびMAPキナーゼの活性化はみられなかった.したがって,核内に局在するlarge Tは,これらの細胞質のシグナルを活性化せずに,AP-1などの核内の転写因子を活性化することにより,細胞周期を誘導するものと結論される.
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