Research Abstract |
東日本の古墳に葬られた人物の社会的性格に対するこれまでの学説を検討し,整理を行った.そして,これまでの研究が古墳出土の人骨の性別や構成に重点を置き,生前の世代構成を検討しておらず,また仮説の域を出ないことを確認した.しかし,人骨の出土状態や副葬品との関係から生前の世代構成を復元し,人骨の遺伝的形質から親族構造の分析を行うという,筆者の方法では人骨を含めて保存状態の良好な古墳にしか適用できないため,造墓契機となった人物の性別を検討することで,これまで筆者が得てきた古墳時代親族構造の通時的展望との対比を試みた.具体的な方法としては,東日本の人骨出土古墳のうち単体埋葬の事例で性別が判定されている古墳,複数埋葬で最初に葬られた人物が明かとなっておりかつ性別が判定されている古墳を集成し,その地域差と時期的変化を検討した.なお,単体埋葬には,同一墳丘に1基の主体部で単体埋葬の場合と,複数の主体部でそれぞれ単体埋葬である事例があり,複数埋葬においても同様であることから,これらを分類して集成を行った. 集成は,5世紀中葉までの古墳時代前半期までは,単体埋葬も複数埋葬での初葬者も男性が約60%,女性が約40%というものであった.それに対して,5世紀後半以降では男性が80%をこえ,男性優位になることが示され,西日本と同様,筆者が示してきた親族構造の変化と対応することが明らかになった.しかし,後半期においては西日本に比べて女性がやや多い傾向も得られた.また,7世紀前後においては,それ以前と異なり,埋葬される親族の範囲が拡大している可能性が強く示唆され,同時に,埋葬終了後に人骨を二次的に移動する行為が広範に行われており,この行為が当時の死の認定に関わるものであり,黄泉の国神話との関連があることが示唆された.
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