Research Abstract |
抄物は日本語研究資料として価値が高いが,仏家の抄物で従来取り上げられてきたのは臨済宗五山派と曹洞宗のそれであった。最近筆者は,顕著な特徴をもち,貴重な言語研究資料であるにもかかわらず,従来見落とされていた一群の抄物に,幻住派僧の手になる抄物群があることに気がついた。本研究は,それら一群の抄物の発掘・整備と,日本語研究資料としての特徴の解明とにつとめたものである。 1.発掘・整備 (1)発掘・整備につとめた結果,幻住派僧の抄物として,湖心碩鼎(1481〜1564)・規伯玄方(1588〜1661)・嘯岳鼎虎(1528〜99)・古帆周信のものが見つかった。 (2)言語研究資料として中心となるものは湖心の『無門関』の講義と規伯の『禅宗無門関私鈔』とであることがわかった。前者には仏教学者による翻刻があるが,検討の結果,問題の多いものであることが判明した。 (3)周辺資料とも言うべき規伯の『三教質疑抄』や古帆の密参録も貴重な言語研究資料である。 2.日本語研究資料としての特徴 (1)幻住派僧の抄物は林下僧の抄物と五山僧のそれとの両面の性格をもっている。 (2)幻住派僧には九州出身者が多く,また北九州で活躍したので,その抄物中に,九州方言かと見られるものが見つかる。檻を表わす「ヲロ」という語などがその例である。 (3)幻住派僧は対明・対朝鮮外交に当たっていたので,明僧や朝鮮僧から学んだことが多い。また明の地で直接自らの耳で聞いてきたものとみられる唐音語も抄中に見える。
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