Research Abstract |
平成5年度は,研究の焦点を,β_1インテグリン分子のうちのVLA-4分子におき,その血球上の発現と機能についてひととおりの知見を得た.フローサイトメトリー上,抗VLA-4モノクローナル抗体(PS/2.3)と,血球のlineage markersを用いた多重染色でVLA-4の発現を調べたところ,VLA-4分子は,未熟リンパ球,c-kit^+/lin^-血液幹細胞に強く表現され,細胞の成熟にともなって発現量が減弱した.VLA-4分子を介する接着/シグナルがin vivoでの血球発生に果たす役割を調べるため,PS/2.3(胎盤を通過)を妊娠マウス腹腔内に投与し続けると,著しい貧血マウスが生まれた.出生前後の主たる造血器である肝臓では,赤芽球の島状増殖像がほぼ消失し,肝単離細胞をフローサイトメトリーで調べると,TER119^+赤芽球が対照マウスの1/15以下に減少していた.また,in utero抗体投与胎仔肝に由来するBFU-E,CFU-Eは対照の1/2程度に減少,肝臓には幹細胞はある程度存在するが,成熟停止状態におかれていることが示唆された.一方,同マウスのCFU-Mix,CFU-GM,CFU-G,CFU-Mも,各々対照の約1/3,1/2,2/3,4/5に減少していたが,胎仔肝,末梢血中とも,顆粒球,リンパ球の量的,質的異常は認められなかった.VLA-4分子による以外の機構が代償的に働いて,これらの系統の分化,増殖を促しているものと考えられた.VLA-4のリガンドの一つ,VCAM-1に対する抗体をin utero投与しても,マウスには貧血はおこらなかった.赤芽球生成では,VLA-4/VCAM-1の接着より,VLA-4とそのもうひとつのリガンド,Fibronectin(FN)との接着が重要であるらしい.以上の結果は,VLA-4分子がin vivoでは赤芽球生成においてのみ重要な働きをしていることを示し,これまでのin vitroの報告と一部異なっていた(投稿中). 現在,我々の研究室で作製した抗体VLA-5抗体を用いて,FNをリガンドとするVLA-5分子の役割を検討している.
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