Research Abstract |
まず,清末政治史・思想史の基本文献である『清実録』を1セット購入した。ほかに,近代中国思想史関連の図書を若干冊購入した。残念ながら,希望した『孔子改制考』進呈本のマイクロ化は関係方面の許可を得られず実現しなかったが,康有為の尊孔保教運動に対する当時の官僚や知識人の反応を,厳復,黄遵憲,章炳麟,張之洞らの文集・年譜などを広く渉猟することにより、清末の全般的思想状況の中に位置づけようと試みた。そのため,京都大学,大阪大学,天理大学などの図書館に資料調査に赴いた。こうした作業の過程で漢人の有力官僚であった張之洞と康有為一派との間の政治的な敵対関係にもかかわらず,国民教育の普及や「国民」の創造といった革新的次元において,両者の思想的傾向に多く共通するものがあることに気がついた。この点については,1993年11月23日より27日まで,中国広東省新会市及び南海市で開催された「戊戌以後の康有為・梁啓超と維新派」国際シンポジウムで,「辛亥革命時期的“尊孔"問題」と題して中国語にて報告した。このときの提出論文は,一部補訂を加えた上で,所属学部の研究室紀要に掲載する予定である。また,国民の「創造」に深く関わる近代中国におけるナショナリズムの問題に関しては,東京大学大学院総合文化研究科地域文化専攻が1993年7月17日に催した公開シンポジウム「いま,なぜ民族か」において,「中華ナショナリズムの現在」と題する報告を行なった。このときの要旨の一部はすでに「中華ナショナリズムの現在」(『世界』1993年11月号)として公表し,また残りの部分も「中華ナショナリズムと『最後の帝国』(蓮實重彦・山内昌之編『いま,なぜ民族か』,東京大学出版会,1994年4月刊行予定)として刊行する予定である。
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