Research Abstract |
本年度は、水野(1992、93)の文脈に柔軟な概念間関係の学習モデル、CORES(contextual and relative existence system)を,人間の処理にできるだけ忠実な自然言語処理システムとして拡張・発展させるため,まず,概念は深層格関係を有する機能的で独立したノードとして取り扱うべきだとする関係情報の潜在的活性化仮説を提起し,道具推論のプライミング実験によってこれを検証した.次にこれに基づき,CORES,統語的な概念連鎖を表す時間関係ノードと,深層格に基づく意味的な概念関係を表す類似関係ノードの2つを設定し,統語と意味の双方の影響を実現できる概念探索経路を実現した.さらに,人間の記憶容量を考慮し,CORESの概念及び概念間関係にも利用可能性を考慮した活性度を設定した. 以上の拡張の後,自然言語処理における主要な課題の中から,CORESの解決すべき課題として,1.代名詞,2.省略語,3.予測,の3つを設定した.まず,1.代名詞,2.省略語を解決するために,実験によって,人間の代名詞の指示語の同定には代名詞の語彙情報と,動詞の意味情報が逐次的に用いられること,省略語の推論にも格関係の欠落という統語情報と,その格関係をとりうる名詞の意味情報が逐次的に用いられることを明らかにした上で,それぞれの処理を上記2つのノード,及び,活性度を利用してCORESで実現し,そのシミュレーション結果を実験結果と比較・修正することで,人間と同じ処理過程をCORESで再現することに成功した.次に、3.予測を実現するために,まず,プライミング実験によって,人間の予測には助詞の統語的連鎖関係と,先行文脈の意味情報が影響することを明らかにし,助詞の統語的影響を時間関係ノードで,文脈の影響を類似関係ノードを通じた概念活性度で実現する予測処理をCORESに組み込んだ.そして,最終的なシミュレーションの結果,人間の予測とほぼ一致した予測結果が得られ,CORESの処理の妥当性と適用力を確認した.
|