Research Abstract |
本研究は,老年期に見られる抑制(inhibition)の機能の変化を,特に行動調節機能の観点から検討した.老年期になると,一般に行動の柔軟な転換性がなくなり,様々な場面で(例えば,自動車運転時),human errorを起こす率が高くなるといわれている.近年,この変化の要因のひとつとして,老年期の抑制機能の問題が注目されつつある(Hasher,Stoltzfus,Zacks&Pypma,1991;Park,1992).本研究では,この老年期の抑制機能の調節過程について,Stroop課題を応用して,実験的検討を行なった.主な結果と考察は次の通りである. (1)老年期の抑制機能は,欠如しているわけではない.抑制機能の活性化が遅い為,みかけ上,抑制機能が欠如しているような現象を起こしていること. (2)老年期では,抑制機能が一旦活性化すると,関連する(targetとなる)刺激も抑制してしまう割合が高くなること.若年成人郡では,該当する刺激(distractor)の抑制が見られたが,老年期では抑制機能が活性化すると抑制する範囲が意図しないもの(target)にまで広がる傾向があった. (3)以上の点をまとめる.(1)(2)の結果から,行動調節の観点から老年期の抑制機能をみると,抑制機能は失われたわけではなく,その調節過程(必要な時に活性化し,不必要な時は活性化しない)に問題があることがわかった. 今後の課題としては,日常生活場面で上記の問題を確認し,介護場面でその知識を応用することであろう.
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