Research Abstract |
種数2以上のリーマン面の普遍被覆多様体がポアンカレ平面である。この古典的な結果は,「リーマン対称空間SL(2,R)/SO(2)を不連続群で割った商空間として種数2以上のリーマン面が得られる」とも言い替えられる。さて、リーマン面にには互いに同値でない複素構造が存在し、それを記述する空間をタイヒミラー空間と呼ぶ。これは、SL(2,R)/SO(2)の不連続群な一様格子の変形とも言い替えることができる。この例の高次元化も従来より深く研究されている。すなわち,任意のリーマン対称空間に一様格子が存在するが,(Borel,Harish‐Chandra,Mostow,玉河),一様格子は4次元以上では変形できない(Weil‐Mostow‐Margulis)ことが知られている。不定値計量を持つ等質多様体(簡約型等質多様体)においては,必ずしも一様格子は存在しないが,筆者は存在のためのいくつかの新しい条件を証明した。さらに,リーマンでない簡約型等質多様体については,高次元の場合にも一様格子を変形することができる例が存在する事を発見し,その構成を,リー環のコホモロジーの理論を用いて証明した。 さて,Hが非コンパクトならば,Gの離散部分群GAMMAは必ずしもG/Hに固有不連続に作用しないという根本的な問題がある。もっとも極端な場合はCalabi‐Markus現象と呼ばれ,4次元以上のローレンツ計量を持つ定曲率空間(相対論的spherical form)の基本群は有限群しかありえないという結果がその典型例である。筆者はまた,可解リー群の等質多様体Gにおいては,Gが可解かつ|pi_1(G/H)|<∞ならば,G/Hには無限離散群が固有不連続に作用し,特にCalavi‐Markus現象が起こらないことを証明した。これは,1989に解決された簡約型の場合(Calabi‐Markus,Wolf,Kulkarni,小林)と対極的な場合が解決されたことを意味する。
|