Research Abstract |
ディプロモセラス科は,白亜紀チューロニアン階にノストセラス科から分かれて適応放散した異常巻アンモナイトのグループである.その中で最も時代的に古い属であるScalaritesは,おそらく,ノストセラス科のEubostrychocerasから派生し,少なくともRhyoptychoceras,polyptychocerasの2属(ディプロモセラス科)の直接の祖先になったと考えられる. 本研究では,先ず,これらのアンモナイト類の形態変化の過程を時間・空間的にできる限り詳細に調査することを目的として,中・上部蝦夷層群(北海道)において地質調査とアンモナイト類の採集行った.なお,採集した標本の摘出・整理に関しては,アルバイトを雇ってこれにあたらせた.さらに,野外において採集できなかった標本を補うため,九州大学・東京大学等において,関連標本の観察,写真撮影および模型作成を行った.上記の作業を通じて比較的多くの標本が得られた,Scalarites属およびPolyptychoceras属を中心に,それらと近縁と考えられるアンモナイト類(合計9種)について,形態及び層序学的データを詳細に検討することによって祖先-子孫関係を推定した.また、いくつかの種について、個体群のサイズ分布と成長様式を詳しく解析し、ノストセラス科からディプロモセラス科が分化・放散していく過程で、個体成長の速度と様式に周期性が認められるようになることが明らかになった。このような情報に基づいて、殻体成長過程とそれに伴う生息姿勢の変化についてのコンピュータシミュレーションを行い,これらアンモナイト類の生活様式からみた進化過程の一部を明らかにした。 このように,比較的大きな分類学的単元である“科"の分化過程が詳細に解明できる例は非常に希であり,進化古生物学的にきわめて貴重な資料となるであろう.
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