Research Abstract |
近年,弾性波素子に於いても,小型化,高周波化,大電力化が進み,その非線形特性が無視できない状況になりつつあるように思われる.また位相共役波の発生やコンボルバのように非線形現象を積極的に利用した応用素子も盛んに研究開発されてきている.さて現在までのところ,一部の例外を除いて,これらの弾性波素子に於ける非線形現象を考察の対象とする場合,それらを非線形素子として積極的に利用する場合に於いても,摂動法を用いた微小信号からの近似で取り扱える範囲に議論を限定しているようである.一方摂動近似が成り立たなくほどの大振幅領域で弾性波素子を安定に使用することを考えた場合,非線形現象特有の不安定性が大きな障害になることが予想される.そこで波の分散性と非線形性をバランスさせて非線形固有のモードであるソリトンを発生させることができれば大振幅領域で安定に弾性波素子を使用することができるようになる可能性がある.本研究者はこのような観点から弾性波の中で最も簡単に非線形効果の生ずる弾性表面波(SAW)をソリトン化させる研究に着手した.まず,金属グレーティング導波路がソリトン発生でよく知られている非線形格子と一致することを見いだし,次に実験的にSAWソリトンの発生を検証した.周波数60MHzパワー密度2-7W/mmのSAWを幅1mum厚さ1000ÅのA1金属ストリップアレイからなるグレーティング導波路の一端から導波させその波形変化を観測した.その結果正弦波SAWが2つのソリトンと思われる負振幅のパルス波列に分裂し波高値の大きなパルスが小さなそれに追いつき最後にまた正弦波に再帰する現象を確認した.これらの観測波形はK-dV方程式を解いた時の波形と酷似しており,この方程式の保存則を観測波形が満足していることも確認した.また導波路から金属グレーティングを取り除いたときのSAWのショックウェーブも確認した.
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