Research Abstract |
気体論(分子気体力学)に基づいて,真空中に置かれた円柱状凝縮相からの定常な蒸発流の振舞を,稀薄度(Knudsen数)の全範囲にわたって解析した。解析には主に数値計算を用いるが,本問題では気体の状態が無限下流の真空に近づく速さが極めて遅く(円柱からの距離に反比例する程度),広大な計算領域が必要になる。この状況においても遠方場で十分な解析精度を保つために,解の変化が激しい所で特性線座標を導入する高精度の数値解法を開発し,これによって,凝縮相から無限遠の真空に至るまでの気体の振舞いを明らかにした。 本問題の結果を,以前に解析を行った球状凝縮相から真空中へ蒸発流の結果と比べると,ごく小さなKnudsen数の場合を除いて気体が全領域で著しく非平衡であること,および凝縮相近くの振舞はほぼ同じであるが,遠方場における気体の振舞いには,両者の間に本質的な違いがあることが判る。遠方場では,球の場合の流れでは気体分子の速度分布関数の高さ・流れに沿う方向の拡がり・不連続の大きさが流れに沿って変らない自由分子流的振舞が現れるが,円柱の場合には,速度分布関数の高さ・拡がり・不連続の大きさはKnudsen数に応じた速さで零に近づき,自由分子流振舞は現れない。この差に応じて,球の場合には気体の温度の凍結(無限下流で温度が零ではない一定値に近づくこと)が起きるのに対し,円柱の場合の温度はKnudsen数に応じた速さで限りなく零に近づく。 両者とも真空中への流れであるにも関わらず,遠方場で分子衝突の効果が球の場合には消滅し,円柱の場合には消滅しないという違いは,気体論の方程式(Boltzmann方程式)における分子の移動項と衝突項の比(局所Knudsen数)が,球の場合には流れと共に限りなく増大するのに対し,円柱の場合にはKndsen数程度の一定値を保つことに対応している。
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