Research Abstract |
1ビット量子化器を用いたオーバーサンプリング方式のA/D変換器はモノリシックIC化に適しており,信号帯域内の量子化ノイズを信号帯域外へ移動させることができるため高S/N比を得ることができる.しかし比較器を用いる非線形システムであるためにフィルタの構成や係数によってはシステムが不安定になることがある.そこで安定動作範囲をその回路構成から求める方法について検討し,さらにモノリシックIC化の可能性および問題点について検討した. まず3次のオーバーサンプリング方式A/D変換器に関して非線形要素である1ビット量子化器(比較器)の入力電圧についてブロック図上におけるディジタルレベルのシミュレーションより統計的に調べることにより量子化器入力の飽和による安定判別を行い,さらにこれを用いて量子化器を線形近似してシステムの安定条件を求め,A/D変換器の安定動作範囲を十分条件として理論的に導出することができた.これを従来の安定判別法であるノイズシェイピングフィルタの係数を少しずつ変えてブロック図上におけるディジタルレベルのシミュレーションを繰り返し行うことによって得られた安定範囲と比較するとほぼ一致していることから,十分条件ではあるがオーバーサンプリング方式のA/D変換器の安定条件を求めることが可能となった. さらに得られた結果に基づいて5次のノイズシェイピングフィルタを持つオーバーサンプリング方式のA/D変換器を設計し,個別部品を用いた試作回路を製作してその動作を確認した.その結果モノリシックIC化を行う上での問題点として,ノイズシェイピングフィルタに用いるスイッチトキャパシタ回路においてクロックのフィードスルーによって生じるオフセット電圧によって帯域内の雑音電力が大きくなってしまうことがわかった.
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