Research Abstract |
報告者らはマウスT細胞リンパ腫EL4とマウス線維芽細胞B82との雑種細胞中ではT細胞抗原受容体(TCR)alpha遺伝子の発現が抑制されること、さらに同遺伝子の発現に重要な役割を果たすと考えられているリンパ球特異的転写因子LEF-1の発現がmRNAレベルで抑制されることを見いだした。本研究においては、次のステップとしてLEF-1遺伝子の上流領域を解析し、雑種細胞において同遺伝子の発現を「負」に制御する部位の同定を試みた。しかしながら現在まで検索した限りでは、そのような部位を明確に同定するには至っていない。そこで雑種細胞におけるT細胞特異的遺伝子の発現抑制機構をさらに追求するため、上記EL4xB82雑種細胞に加えEL4にマウス形質細胞腫S194を融合した雑種細胞においてTCR/CD3(TCRalpha,beta,gamma,CD3delta,epsilon)遺伝子およびこれら遺伝子の発現に関与すると考えられているいくつかの組織特異的転写因子(LEF-1,GATA-3,Ets-1,PEBP2alphaA)遺伝子の発現抑制をノーザン法により解析した。EL4xB82雑種細胞においてはCD3epsilon、Ets-1、PEBP2alphaA以外の遺伝子の発現は著しく抑制されていた。一方、EL4xS194雑種細胞においてはEL4xB82雑種細胞で発現の見られた上記3遺伝子に加えてTCRalpha、CD3delta、LEF-1遺伝子の発現も認められた。なおすべての遺伝子が両雑種細胞中に保持されていることはサザン法により確認された。以上の結果から雑種細胞においてはTCR/CD3遺伝子の発現抑制が認められること、またその発現抑制には組織特異的転写因子遺伝子の発現抑制が関与していることが示唆された。さらに2系の雑種細胞間においてこれらの遺伝子の発現抑制パターンに差がみられることから、線維芽細胞におけるこれら遺伝子に対する発現抑制機構と形質細胞におけるそれとは異なっていると考えられた。
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