Research Abstract |
(1)炎症性サイトカインの発現と役割 IgA腎炎組織40例での検討で、糸球体および間質に抗interleukin(IL)‐1alpha,beta,抗IL‐6,抗tumor necrosis facter(TNF)‐alpha,‐betaに対する各抗体で細胞質が染色される(cytoplasmic staining)細胞が存在し,この細胞は、抗単球/マクロファージ(Mphi)抗体を用いた蛍光抗体二重染色で陽性を示した。TNF‐alphaは,また一部の組織で糸球体固有細胞(とくに糸球体上皮細胞)にも認められた。IL‐1alpha,IL‐6も弱くメサンギウム細胞に陽性の場合があった。抗Mphi抗体を用いた免疫組織学的染色とin situ hybridizationを同一切片上を行ってサイトカイン発現細胞を同定したところ,Mphi上に明らかにIL‐1alpha,IL‐6,TNF‐alphaのmRNAシグナルが観察された。このことからも,糸球体内でのこれらサイトカインの供給源は,主としてMphiによることが明らかになった。糸球体内のIL‐1alpha,IL‐6,TNF‐alpha陽性細胞数(糸球体クロスセクション当りで算定)は,いずれもメサンギウム細胞の増加と統計学的に有意の相関性を示した。また,糸球体中のTNF‐alpha陽性細胞数は蛋白尿の程度と関連していた。間質でのIL‐alpha,IL‐6,TNF‐alpha陽性細胞(間質の細胞100こ当りで算定)は,尿細管・間質の組織障害の程度,蛋白尿,尿中beta2‐ミクログロブリン排泄と統計的に有意に相関していた。以上の成績から,IgA腎炎では主としてMphiよりいくつかのサイトカインが同時に発現しており、組織障害に関与していると考えられる。 (2)トランスホ-ミング成長因子‐beta(TGF‐beta)の発現役割 TGF‐beta1に対する2つの抗体(Ab1とAb2)を用いて検討した。Ab1は,血小板由来のTGF‐beta1を免疫して作成された抗体で,ヒトTGF‐beta1のmature TGF‐beta1とlatency associated peptide(LAP)を主に認識した。Ab2は,リコンビナントTGF‐beta1を免疫してつくられたもので,主にLAPと反応する抗体であった。IgA腎炎組織では,Ab1は酸・尿素処理後に明らかに陽性を示し,メサンギウムを中心に,また一部糸球体基底膜(GBM)に沿って陽性であった。一方,LAPを強く反映するAb2での染色では,正常腎組織では酸・尿素処理なし,小血管と弱くメサンギウムに認められ,IgA腎炎ではメサンギウム領域やimmune deposit中にみとめられた。Ab2によるメサンギウム染色の強さと分布は,メサンギウム基質の増加と有意の相関を示した。In situ hybridizationにより,糸球体細胞にTGF‐beta1 mRNAのシグナルが認められた。以上の成績から,実験腎炎で報告されているように,ヒト腎炎においてもTGF‐betaが細胞外基質の増加に重要な役割を果たしていると考えられる。
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